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  今日雑誌やテレビ、マンガや映画、そしてCDや携帯電話までもが娯楽となっている中、人々は限られた時間であふれる情報を楽しみとして処理している。

そんな状況で、メディアがどんどん変わっていくものの中身は全く変わらず人々に愛され続けているものが音楽である。生楽器のみから蓄音機、カセットテープからMD、そしてMP3やインターネットなどになっても、人々が欲して、その欲求に応える為にそこに流れているものに音楽がある、という事実は永遠に変わらない。
その中でもクラシック音楽、更には古楽器と呼ばれるハープやリコーダーなどいわゆるバロック時代から活躍している楽器などは、ここ数百年にわたって決して消えることなく人々を感動させつづけている。

特にチェンバロと呼ばれるピアノの原型となる楽器などは1000年ほど前から存在していたという文献も残っており、その歴史には計り知れないものがある。チェンバロも発明された当初は目新しい楽器として存在していたはずである。それがある程度時間が経ち、数百年前には既に古い楽器の部類にはいるようになったはずだが、それでもそこから1000年以上存在し続けるというのは、技術開発の速さで、モノがなんであろうとすぐに前のバージョンがお払い箱になる現状と比べると異様ですらあり、それと同時に非常に興味深い楽器でもある。もともとチェンバロとはピアノの原型になったものなので形や音を出す原理は似ており、英語ではハープシコード、フランス語ではクラヴサンとも呼ばれている。

今回はそのチェンバロの奏者であり、12月4日に「Cembalo Revolution」というタイトルで、チェンバロ=バロックという今までのイメージを打ち砕く新しいCDのリリースとなる有橋淑和(ありはしすみな)さんにいろいろと聞いてみた。

1回目となる今回は自分にとっての演奏とはなどについてきいてみた。
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Q1.4歳でピアノを始めたとの事ですが、音楽家以外で小さい頃からなりたかったものはありますか。
なんにでも興味を持つ方だったので、スチュワーデスさんを見ればスチュワーデスさんに、女優さんを見れば女優さんに興味を持っていました。でも演奏は物心がつく前からやっていたので、将来何になると考えるときに演奏家以外というのは考えたことがなかったです。
実際やっている途中でつらいし辞めたいと思ったこともあったけれど、今考えると辞めたいというよりは、その時どこかほかへ遊びに行きたいというレベルで、やっぱりこれ以外の仕事というのは考えたことはないですね。


Q2.チェンバロに初めて触れた時、感じた思いはどんなものでしたか
18歳の高校をもう卒業するかという時だったんですけれど、それまでにも授業でこの楽器について学んだり音を聴いていたりしていて不思議なものだなとは思っていたので、実際に触ってみた時もフーンこういうものなのか、という感じでした。ただガーンというものではなかったけれど、ジワジワと運命というかめぐり合いみたいなものを感じて、その日のうちにわたしはこれをやっていくんだなというのは心に決めていました。

Q3.イメージを伝えたい、音色を感じてもらいたい、など自身の演奏を聴くオーディエンスに求めるものはどんなものですか。
生の演奏会であれば実際そこに自分がいるので、オーディエンスの方にも音を中心として表情やしぐさなど五感で感じて、共鳴したり同じ周波数を感じたりして欲しいです。CDであればそれはケースバイケースですね。お料理をしながら気軽に聴いてもらってもいいし、悲しい曲を聴いて涙してもらうのもいいですし、演奏にひたってもらうのもいいですね。でもBGMとして聴いていたのに気づいたら音楽に入っていたという感じで聴いてもらえるのはやっぱり嬉しいですね。

Q4.同上の質問で、他の人の演奏を聴くときに求めるものはなんですか。美術や映像など音楽以外の文化ではどうですか。
それが音楽でも絵画や美術品でも自分が一番望むのは、その場にいることすら忘れさせてくれるくらいに、我をも忘れさせてくれるくらいにして欲しいということです。はっと気づいたら入ってしまっていたという位になりたいので、それらを鑑賞する際に余計な先入観をあまり入れたくないですね。
作品が作られた時の時代背景や作者の環境など勉強しておくべき客観的な事実なのであれば、知っておくと逆に作品の厚みも増すかもしれないけれど、それ以外のこうあるべきだったのにとか評論家の人の主観的な感想などは、出来ればなしで鑑賞したいです。

Q5.「引き込んで聴かせる」や「自分が楽しむ」の様なコンセプト的なものから「練習は最低これだけはやる」のような物理的なものまで、演奏という形での表現で「これだけは絶対」という様なルールはありますか。
その時の流れやアイデアで決めるようにしています。一人でやっているので何か決めてしまうとそれが絶対になってしまって、逆に怖いです。高校生の頃は、このハンカチは絶対にもっていくとかを決めていたこともありましたけど、それで失敗したりして逆にそれに縛られている自分が怖くなって、そういったルールというかジンクスなどはやめました。
しいて言えば練習は納得できるまでやること、具体的なところでは熱いお湯で手を洗うと筋肉が収縮と聞いたのでそれを避けているとかそれくらいかな。あと練習する時はかならず舞台をイメージしてやるようにしています。それと演奏会に来てくれた人にはできるだけ全員の人が満足してもらえるように心がけています。でも実際お客様全員が全てのプログラムでというのはなかなか難しいんですけどね(笑)。