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Interview
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 普段何の気なしに見ているテレビだが、その構造というか仕組みを知る人は少ない。江戸時代にタイムスリップして「テレビっていうものがあってねえ」と言ってみたところで「じゃあ作ってみなされ」と言われてもできない。ホラ吹き呼ばわりされるのがオチである。
  テレビだけでなく現代はそういった数世代にも渡る技術の積み重ねによって初めて可能になっている精密なハードウェアが多数ある。夜空に浮かぶ月に人が行ったのもそうだし、クラブやコンサートで見かける最先端の音響や映像機器などもまたしかり。
  恐らく江戸時代の人達にとっては欲しいけどそれを作る技術がない、というよりは発想さえ浮かばない代物だろう。

 そしてまた100年も経てば今の我々には「こんなものがあったらな」という想像すらできないようなギアが出ているのだろう。それらは100年後のある日誰かの突然のひらめきだけによってだけ生まれるのではなく、今作っている、開発している技術の積み重ねによって初めて生まれるものである。
  我々は受身となりその開発された最新の技術を使うだけだが、それではその技術が日々開発されている現場はどうなっているのだろうか。今回は電子楽器メーカーKORGのVJ/DJエフェクターKAOSS PAD ENTRANCERの開発と企画を担当した於保(おほ)尚博氏と栗原 徹氏に話を伺ってみた。

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▲栗原氏(左)と於保氏
Q1:現在の主な業務内容を教えてください

 栗原氏(以下K):私は商品企画の担当ですが、大抵の場合開発から提案される新しい技術や、既存の商品の後継機種や関連機種をどのような形で世の中に出すかとか、どういう市場と結び付けられるだろうかということを考えています。開発が実際に進んで販売を開始する際には、企画した商品が市場でどのように受け入れられるかを調べる為に、DJさんやVJさんなど実際に使う人達や、販売店の方々と話したりもします。
 於保氏(以下O):私は具体的な商品を開発するセクションにいるので企画から上がってきた「この技術でこんなことできる?」という要望に応えたり、研究部署の新しい技術や既存の技術を商品に利用できるような形にすることなどを常に探したりしています。そしてそれが通った場合にプロトタイプから実際の商品向けの開発に入る、という流れですね。

Q2:今のお仕事に就かれる以前から音や映像、機材の開発などに興味はあったのでしょうか

 (O)基本的にKORGに入る人は音楽好きか機材好きかどちらかが多いのですが、私は両方とも好きで高校の頃からディストーションなど自作のエフェクターを作っていました。その勢いが余って今日まで来たという感じです。
 (K)私はバンドですね。今もやっているんですが、それだけではなくやっぱり好きな「音楽」というかエンターテイメントに関わる仕事がしたいなとずっと思っていました。

Q3:現在の仕事を始めたきっかけは何でしたか?

 (二人)学生の頃は趣味の対象であった音楽や機材が、この会社に入り仕事として楽器業界で働き始めたのがきっかけでした。
  今自分達がこういう立場で仕事が出来るのは非常に恵まれた事でもあり、やはり学生のころから一貫してやりたいことはこれ、とはっきりしていた事が、今までもそしてこれからも重要になると思います。

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2001年に発売したKAOSS PADとDJミキサーの機能を融合した「 KAOSS MIXER」
Q4:入社して初めて開発を手がけた時のことを教えてください

 (K)かなり早い段階から企画はトータルでやらせてもらえたのですが、初めの頃は既存の商品のマイナーチェンジなど、比較的簡単というか手堅いものから関わり始めまして、徐々に仕事の内容を広げていきました。
 (O)私も始めは上の人についてやっていました。初めて手がけたのはイコライザー系のエフェクターだったと思います。いずれにしても共同作業になるので、どれだけ早くチームの一員となって回りの人と上手くやっていけるかが大事だなと感じましたね。自信があるような人でもスタンドプレーをやっているとなかなかチームとして前に進めないですよね。

Q5:KAOSS PAD ENTRANCERの開発過程において「これはつらかった」とか「これは嬉しかった」などのエピソードはありますか

 (K)今回音と映像のエフェクターであるKAOSS PADのENTRANCERというのを出しました。自分達が出したものに関しては、世の反応をみるまでやってきたことが正しかったのか否かがわからないので常にどこかで不安があるのですが、これがイギリスのPLASA SHOW※で賞を頂いて海外の方にも絶賛していただいたのでそれがとても嬉しかったですね。
※ ロンドンで毎年開催されている照明/PA/DJ機器の世界的見本市。KAOSS PAD ENTRANCERはAudio-Visual部門のTechnical Innovationを受賞。
http://www.plasashow.com/press/releases/awards.asp
 (O)KAOSS PAD ENTRANCERみたいなジャンルの商品は、本当は数年前に出したかったのですが、その当時では、今回実現できた内容をやろうとする技術がいろいろな意味であまり現実的ではなく、なかなか商品として成り立つ仕様にできなかった為、その時は断念というか保留にしなくてはならなかったのがつらかったです。ただ最近になって技術が進みやっと現実的な環境になり、今回リリースまで至ったのでそれが嬉しいことになると思います。

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PROFILE
於保尚博
株式会社コルグ 商品開発部所属
長崎県出身。87年コルグの開発系子会社に入社。5年ほど前にコルグに転籍。
栗原 徹
株式会社コルグ 商品企画室所属
東京都出身。92年入社。国内/海外勤務を経て、97年より現職。
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